大阪地方裁判所 平成8年(ワ)13203号 判決 1998年12月02日
原告
甲野春子
右訴訟代理人弁護士
中北龍太郎
被告
医療法人S
右代表者理事長
乙川一郎
右訴訟代理人弁護士
石川通洋
同
夏住要一郎
同
間石成人
同
田辺陽一
主文
一 被告は、原告に対し、金七〇〇万六七六〇円及びこれに対する平成九年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮り執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、一八二九万五〇四一円及びこれに対する平成九年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
本件は、原告が、被告の経営する病院で治療を受けた際、看護婦の行った点滴のための注射針刺入行為によって、左手関節部神経を損傷した上、反射性交感神経性異栄養症(以下「RSD」と表記する。)に罹患したとして、被告に対し、医療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)による損害賠償請求権に基づき(選択的併合)、被告に対し、原告の被った損害の賠償を請求した事案である(附帯請求は遅延損害金の請求である。)。
二 争いのない事実等
1(一) 原告(昭和二八年一一月二三日生)は、昭和五三年四月から、大阪市に学校栄養職員(地方公務員)として就職し、現在、大阪市立の小学校に勤務している。原告の仕事内容は、勤務校における給食に関する事務処理等の外、大阪市の年間給食日数、献立数等の立案等も行っている。
原告の家族は、夫と高校三年生の長男及び中学一年生の二男であり、長男は、介護を要する身体障害児である。
〔原告(昭和二八年一一月二三日生)が、大阪市の職員であり、学校栄養職員として勤務していることは争いがない。その余の事実につき、甲一四、原告本人〕
(二) 被告は、肩書地において、S病院(以下「被告病院」という。)を経営している。
(争いがない。)
2(一) 原告は、腹痛・下痢等のため、平成七年八月二七日の午後、被告病院で診察を受けた。原告は、被告病院で、急性胃腸炎と診断され、治療を受けて一旦帰宅した。しかし、原告は、腹痛がひどくなったため、同日午後一〇時ころ、再度、被告病院で診察を受けて入院し、治療を受けた。原告は、同月三一日に外泊し、同年九月一日午後六時ころ被告病院に戻った。
(争いがない。)
(二) 原告は、被告病院に戻った後、被告病院の看護婦(以下「担当看護婦」という。)によって二本の点滴を受けた。担当看護婦は、原告の左前腕部に注射針を刺入して、一本目の点滴を行ったが、二本目の点滴に取り替える際、「チューブに空気が入っているので、空気を抜く。」と言って一旦注射針を抜き、注射部位を変えて、原告の左手背部手関節拇指側付近に注射針を刺入した。原告は、左前腕部に鋭い痛みを感じたため、担当看護婦に対し、注射を止めるよう訴えた。担当看護婦は、一旦注射針を抜いたが、数秒後、再び同じ部位に注射針を刺入した(この左手背部手関節拇指側付近への二回目の注射針刺入行為を「本件注射行為」という。)。その瞬間、原告は、左腕の付け根から左手指の先端まで強烈な電撃痛を感じ、担当看護婦に対し、注射を止めるよう大声で訴えた。担当看護婦は、注射針を抜いた上、注射部位を右腕関節部分に変更し、二本目の点滴を行った。
〔原告が、被告病院に戻った後、担当看護婦によって二本の点滴を受けたことは争いがない。その余の事実につき、原告本人、弁論の全趣旨〕
(三) 原告は、平成七年九月二日の午後、被告病院を退院した(争いがない。)。
3 原告は、その後も、左示指から手背部全体にしびれと痛みが続いたので、平成七年九月四日、被告病院で治療を受け、同月一三日から二七日までの間に四回にわたり、大阪労働衛生センター第一病院(以下「第一病院」という。)で治療を受けた。第一病院で原告の診察を担当した医師は、左手示指から手首にかけての手背部の疼痛及びしびれ、左肘及び左肩の鈍痛の訴えを原告から聞いて、左橈骨神経損傷と診断した上、RSDへの罹患を疑い、原告に対し、鎮痛剤を投与し、また、必要以上に動かさないようにし、かつ、患部への刺激を避けるために、ギプス固定を施した(以下「本件ギプス」という。)。(甲六、乙一、原告本人)
4 原告は、平成七年一〇月九日以降、田島診療所で治療を受けた。田島診療所で原告の診療を担当した医師は、原告を左手関節部神経損傷及びRSDと診断した。
(争いがない。)
5(一) 原告は、現在、RSDに罹患している(争いがない。)。
(二) 原告は、現在では、本件注射行為直後より疼痛の範囲も挟まり、痛みも多少軽減するなど、やや回復したが、なお、左手首から左手指の先端に疼痛が存続し、自動運動及び他動運動のいずれによっても右疼痛が増加し、左示指及び左手背部に知覚異常(しびれ)があり、左示指の屈曲が制限され、握力が低下している。このため、原告は、自分の意志どおりに手指を動かすことができず、手指が物にぶつかることが多く、条件反射がうまくいかず、業務上のワープロ入力、調理、あるいは、家庭生活における家族の世話等に支障がある。原告の右症状はRSDによるものである。
(甲一、二、六ないし一一、一六、一七、乙一ないし四、証人柴紘次、原告本人、弁論の全趣旨)。
6 人の身体の一部が外傷を受けると、交感神経が緊張して血管の収縮が起こり、止血を促進する。その後、交感神経の緊張を緩める方向に移行し、血管が拡張して創傷を治す。何らかの原因で右移行が正常に行われず、交感神経の緊張状態が持続すると、血管収縮が継続するため、組織の阻血状態が生じ、これによって疼痛が発生する。この疼痛が再び交感神経を刺激して緊張状態を増強する。この悪循環によって強い交感神経の緊張状態が作られる。これがRSDの病態である。RSDの発生機序は、現在、解明されていない。
(甲八ないし一二、一六、一七、証人柴絋次)
7 看護婦には、患者に注射をするに際し、注射針の刺入によって神経等を損傷しないよう注意すべき義務がある(この注意義務を以下「本件注意義務」という。)。
三 争点
1 本件注射行為によって原告がRSDに罹患したといえるか(因果関係の有無)。
(一) 原告の主張
(1) 原告は、本件注射行為によって、左手関節部神経を損傷され、RSDに罹患した。すなわち、一般的に注射行為はRSDの原因となりうるところ、被告病院の看護婦は、注射により原告に痛みが生じたにもかかわらず、再び同じ部位に注射し、その後、原告にRSDが発症したので、本件注射行為がRSDの原因であることは明らかである。
(2) 被告は、第一病院で行われたギプス固定もRSDの原因たりうる旨主張するが、ギプス固定のうち、RSDの原因となるのは、ギプス中で腫脹した患肢が固定されたギプスによって圧迫され、循環傷害、神経障害の起こりうるような圧迫的なギプス固定であるところ、第一病院で行われたギプスは、手指を動かすと痛みが生ずるので、動かさないように保護するために、平板を手の形に合わせて変形させた上にきつく締めつけないように包帯を巻いたものであり、圧迫的なものではなかったので、およそRSDの原因とはなりえない。
(二) 被告の主張
(1) 本件注射行為の施行部位、すなわち注射針の刺入部位は、手背部の手関節拇指側を走行している静脈(拇指橈側皮静脈)であるが、この部位に近接する末梢神経は橈骨神経の分枝であって、その部位より末梢部の知覚を司るものである。したがって、仮に本件注射行為によって、同神経の分枝の損傷が生じたとしても、末梢部の知覚異常がみられることはあっても(これは一過性のものである。)、固定的に末梢部以外の手指の運動機能障害が生じることは考えられない。
(2) RSDは、外傷、末梢神経損傷の外、神経損傷とは無関係な徒手整復、ギプス固定、さらには、椎間板疾患、脊髄損傷、変性疾患、脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿病等の疾患によっても起こりうるところ、原告は、第一病院で、本件ギプスを施行されており、これが原因である可能性も否定できず、本件注射行為のみが原因であるとはいうことはできない。
2 本件注射行為につき、担当看護婦に本件注意義務に違反した過失があるといえるか。
(一) 原告の主張
看護婦は、注射針を刺入した時に、しびれや電撃痛などが走った場合には、直ちに注射を中止すべきであり、また、注射施行時の患者に変化がある場合には医師の指示を受ける必要がある、しかるに、担当看護婦は、前記二2(二)のとおり、左手背部手関節拇指側付近への一度目の注射によって痛みを感じた原告から、注射を止めるよう訴えられたにもかかわらず、何ら医師の指示を受けることもなく、再び同じ部位に注射針を刺入した(本件注射行為)ものであって、本件注射行為につき、担当看護婦に本件注意義務に違反した過失があることは明らかである。
(二) 被告の主張
RSDの病態は、交感神経反射の異常であるが、RSDはすべての外傷などの疼痛病変後に発症するわけではなく、その原因は、現時点においては解明されていない。しかし、RSDの発症には、少なくとも、交感神経の亢進をもたらす持続性有痛性の損傷(引き金と言われる。)、患者の素因及び交感神経の持続的亢進状態をもたらす異常な交感神経反射の三要素が不可欠であると考えられているので、原告のRSDについても、本件注射行為時の末梢神経損傷のみによって発症したものではなく、痛みに対して敏感であるという原告本人の素因と異常な交感神経反射の存在が、発症の不可欠の原因となっているといえる。そうすると、担当看護婦は、本件注射行為時に、予め原告の右素因や異常な交感神経反射の存在を知ることは不可能であるから、原告にRSDが発症することを予見することも回避することもできなかった。
したがって、本件注射行為につき、担当看護婦に本件注射義務に違反した過失があるとはいえない。
3 原告の損害額
(一) 原告の主張
原告は、左手関節部神経損傷の上、RSDに罹患したことにより、次のとおり、損害を被った。
(1) 治療費 七七五一円
原告は、第一病院及び田島診療所において、治療費として七七五一円を支払った。
(2) 傷害慰謝料(一一か月)
一五〇万円
原告は、本件注射行為後、後記のとおり、症状固定するまでの約一一か月間、疼痛等に悩まされ、通院を余儀なくされ、また、学校栄養職員としての業務及び家庭生活にも支障を来したことにより、多大な精神的苦痛を被った。右苦痛を慰謝するには、一五〇万円をもってするのが相当である。
(3) 逸失利益一二二八万七二九〇円
RSDは、難治性の疾患であるとされており、原告のRSDも、平成八年八月四日、症状固定し、現在に至るまで治癒しておらず、将来にわたって治癒を望むことができない。原告には、左手、左腕及び左手首に疼痛及び激痛が続き、ワープロの使用及び筆記作業等が継続できず、同じ姿勢を保つと左腕が痛み、重い物を持つことができず、指先を使う細かな作業も著しく困難であるなどの後遺障害が存続しているところ、このような症状は、後遺障害別等級表第一二級の一二の後遺障害に当たる局部に頑固な痛み等の神経症状に該当し、これによる原告の労働能力喪失割合は一四パーセントである。
したがって、原告は、年収五五〇万四六六四円(本件注射行為前の三か月の平均月額賃金四五万八七二二円に一二を乗じたもの。)に労働能力喪失割合の一四パーセントを乗じ、就労可能年数(症状固定時から満六七歳までの二五年間)に対応する新ホフマン計数15.944を乗じた一二二八万七二九〇円の損害を被った。
(4) 後遺障害慰謝料 三〇〇万円
原告は、右後遺障害により、学校栄養職員としての業務や夫と二子を持つ家庭生活に重大な支障が生じており、これによって多大な精神的苦痛を被っている。原告の被っている右苦痛を慰謝するには、三〇〇万円をもってするのが相当である。
(5) 弁護士費用 一五〇万円
本件事案の内容、その難易度、その他諸般の事情を総合して考慮すると、弁護士費用として一五〇万円が本件注射行為と相当因果関係に立つ損害である。
(二) 被告の主張
原告の主張はすべて否認する。
特に、RSDが難治性であるとの主張は否認する。発症から四か月以内に治療を開始した場合には、高い回復を得られる。
第三 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 争点1について
1 前記第二の二2ないし6の各事実に、証拠(甲一、二、六ないし一一、一六、一七、乙一、三、証人柴絋次、原告本人)を総合すると、RSDの発生機序は、現在、解明されていないが、RSDは、軽微な外傷によって起こること、注射も、RSDを引き起こす軽微な外傷に当たり得ること、RSDは、受傷直後ないし数週間以内に発症すること、発症直後の症状としては、疼痛が認められ、自動運動及び他動運動により増悪すること、原告も、本件注射行為の直後から、左腕全体に、激しい疼痛を感じ、RSDの症状でもある火傷をした場合のようなしびれを感じたこと、右症状が現在まで引き続いて存在することを認めることができる。これらの事実を総合すると、本件注射行為によって原告がRSDに罹患したことを十分推認することができる。
2 被告は、前記第二の三1(二)(1)のとおり主張し、乙五号証にはこれに沿う記載がある。
しかしながら、右1に掲げた証拠によると、RSDは、患者が軽微な外傷を受けた後に、この原疾患からは考えられない広い範囲の疼痛と浮腫性腫脹が生じることが主な症状であること、特に、本件のように神経を損傷した場合においては、疼痛の範囲が損傷された神経の支配域に一致しない類型があること、橈骨神経の損傷の場合であっても相違はないこと、疼痛等の症状は必ずしも可逆的ではないことを認めることができる。そうすると、本件注射行為によって、本件注射行為が行われた橈骨神経部位より末梢部の知覚以外に異常が生じないとはいえない。
3 また、被告は、前記第二の三1(二)(2)のとおり主張し、乙五号証にはこれに沿う記載がある。
しかしながら、前記1で認定したとおり、原告は、本件注射行為の直後から激しい疼痛等を感じたものであって、原告の疼痛は、本件ギプスを施される以前から生じていたこと、本件ギプスは、平成七年九月一三日に、原告の疼痛等の訴えに対し、必要以上に動かさないようにし、かつ、患部への刺激を避けるために施されたものであること(前記第二の二3)、本件ギプスは、柔軟性のある板状の物を原告の指の形に合わせて形を作り、その上から簡単に包帯で巻き付けるものであって、原告の腕を締めつけるものではなかったこと(原告本人)に照らすと、本件ギプスが、原告のRSD発症の原因であるとは認め難い。
二 争点2について
1 前記第二の二7の事実に、証拠(甲一三、証人柴絋次)を総合すると、一般的に、医師や看護婦の間では、患者に対し、注射針を刺入する際、患者の神経を損傷し、RSDやこれに類似した疾患であるカウザルギーを惹起するおそれがあることから、注射針を刺入したときに患者にしびれや電撃痛などが走った場合には、直ちに注射を中止する必要があることや、そのような場合、再び前に注射したのと同じ部位に注射針を刺入すると、再び神経を損傷する危険性が大きいため、これを避けるべきであるとされていることを認めることができる。
そうすると、本件注射行為につき、担当看護婦には本件注意義務に違反した過失があるといえる。
2 被告は、前記第二の三2(二)のとおり主張する。
確かに、前記第二の二6のとおり、RSDの発生機序は解明されていないものの、証拠(乙三)によると、現在、医学上、RSDの発症には、少なくとも、有痛性の損傷、患者自身の素因及び異常な交感神経反射が不可欠であるとする考え方もあることを認めることができる。
しかしながら、仮に、RSDの発症につき右のような考え方を採ったとしても、注射針を刺入したときに患者にしびれや電撃痛などが走った場合に、再び前に注射したのと同じ部位に注射針を刺入することによって、注射を受ける患者の神経を損傷し、RSD等を発症させるおそれがあることに変わりはない(他の要因が重なれば発症するおそれはある。)のであるから、医師や看護婦にとって、他の要因が存在することを知っているか否かにかかわらず、これを避けなければ、RSD等を発症させるおそれがあることを予見することができるといえる。そうすると、担当看護婦は、本件注射行為によって原告にRSD等が発症するおそれがあることを予見することができ、これを回避することもできたというべきである。
したがって、被告の右主張を採用することはできない。
三 争点3について
1 証拠(甲三の1ないし3、五の1ないし22)によると、原告が、第一病院及び田島診療所に対し、左手関節部神経損傷及びRSDの治療費として、六七六〇円を支払ったことを認めることができるが、本件全証拠によっても、原告が、治療費として右金額を超える金員を支払った事実を認めることはできない。
2 前記第二の二1、3、4の各事実に証拠(甲二、一六、一七、証人柴紘次、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告のRSDは、平成八年八月四日、症状が固定したこと、原告は、本件注射行為以来、疼痛等に悩まされ続け、第一病院や田島診療所等に通うことを余儀なくされ、学校栄養職員としての業務や夫と二子を持つ家庭生活に支障が生じ、多大な肉体的、精神的苦痛を被ったことを認めることができる。
症状固定時までの右のような原告の苦痛を慰謝するには、一三〇万円をもってするのが相当である。
3 前記第二の二5(二)の事実及びRSDに罹患した場合、交換神経節に局所麻酔薬を注入することによって交感神経を遮断する交感神経ブロックによる治療の外、理学療法、レーザー治療、薬物治療、心理療法、鍼灸等による治療が行われるが、治癒率、特に完治する割合は二割程度と低く、発症後一年を経過すると、回復は期待できないこと(甲八、九、証人柴絋次)を総合すると、原告は、RSDに罹患して後遺障害が残ったことにより、部分的に労働能力を喪失し、将来もその回復が困難であることを認めることができる。
しかしながら、本件全証拠によっても、原告が左手関節部神経を損傷し、RSDに罹患した後に、その収入が現実に減少したこと、将来、減少する可能性があることを認めることはできない。
そうすると、原告には、後遺障害が存在することによって逸失利益があるとはいえない。もっとも、社会経験則上、後遺障害の存在によって、原告の今後の昇進、昇級等に多少の影響がないとはいえないが、この点は、後遺障害慰謝料額算定の際に考慮することとするのが相当である。
4 前記第二の二5(二)の事実に証拠(原告本人)を総合すると、原告は、その後遺障害により、学校栄養職員としての業務や夫と二子を持つ家庭生活に支障が生じており、これによって多大な精神的苦痛を被っていることを認めることができる。原告の右精神的苦痛を慰謝するには、右3において指摘した点も考慮すると、五〇〇万円をもってするのが相当である。
5 本件事案の内容、その難易度、認容額、その他諸般の事情を総合して考慮すると、本件注射行為と相当因果関係に立つ損害と見ることができる弁護士費用は、七〇万円であると認めるのが相当である。
四 結論
以上によると、原告の不法行為(使用者責任)による損害賠償請求は、原告の被った損害合計七〇〇万六七六〇円及びこれに対する不法行為の後である平成九年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官谷口幸博 裁判官大野正男 裁判官武田瑞佳)